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通貨危機が起こりそうな状況でも急いで現物資産に逃避しないほうがいい理由

「有事の金」などと言われて安全資産の代表格でもある純金。戦争や通貨危機があるたびに、純金へと資金を退避すべきだという声が高まります。

 

次の危機は近い。純金を買っておくべきか?

2018年秋から、米国の利上げと量的引き締め、さらに欧州の金融緩和一服から利上げへの転換、中国の経済成長の鈍化など、世界規模の通貨危機の前兆となる出来事が少しづつ明らかになってきています。

通貨危機とは、通貨の価値が下落することであり、最悪の場合紙幣が紙切れになる可能性があります。通貨危機に備えて現金を現物資産に変えておこうと考えている人も多いでしょう。価値の保存に適した現物資産の代表格は純金です。

純金が価値の保存に適している理由

資産としての純金には次のメリットがあります。

  1. 色がきれい→装飾品としての価値がある
  2. 腐食しにくい→工業用材料としての価値がある
  3. 産出量が激増しない→希少価値がある
  4. 持ち運べる・隠せる→接収されにくい

その一方で、純金にはデメリットもあります

  1. 売り買いの価格差が大きい→短期売買では損をする
  2. 根源的に利益を生まない→利息や配当がない
  3. 保管コストがかかる→保管料の支払い・盗難リスクへの対応が必要

純金の代わりに、金価格連動ETFなどのペーパーゴールドを保有することも考えられます。普段の資産分散としてペーパーゴールドを利用すると、上記のデメリットのうち売り買いの価格差と保管コストの問題を解消できるので便利です。しかしながら、現物需要が急上昇するような危機を想定すると、金先物などを組み入れたETF/ETNなどによって水増しされたペーパーゴールドの信用が剥げることも考慮する必要があります。つまり、本物の危機に備えて持つのであれば純金の現物一択です。

純金価格の変動

前回の大規模危機と言えばリーマンショックですが、2008年のサブプライムローン問題からリーマンブラザーズの破綻までの期間において、金価格は一旦大きく下落してから大きく反発して上昇してゆきました。この時期の純金価格の下落は、サブプライムローン問題でリスク資産の処分が進んだ中での換金需要だと考えられます。

最近の純金価格の方は、2018年8月に底値1180ドル/トロイオンスから上昇トレンドに転換し、2019年1月2日現在で1280ドル/トロイオンスまで上昇しています。通貨危機の可能性の高まりに合わせて金価格が上昇しているように見えます。

ここで、視点を変えて円建てで金価格を見てみます。円建ての純金価格は2018年8月に底値4557円/グラムから上昇トレンドに転換し、2018年12月中旬まではドル建て純金価格と同様に上昇しています。しかしながら、12月中旬から2019年1月にかけて上昇の勢いは弱まり、1月2日現在では下落傾向にあります。

短期視点で見ると、世界市場が危機を想定している状況の下で、ドル建て金価格は上昇しているのに円建て金価格は下落しています。つまり、金融危機を想定して純金に資金を避難させた人のうち、利益を得たのはドルを売って金を買った人であり、損失を被ったのは円を売って金を買った人ということになります。

危機に備えて純金を買ったのに結局純金も値下がりしてしまったら逃避させた意味がありません。

日本円は最弱であり最強の通貨

通貨危機では、ハイリスクハイリターンの資産からローリスクローリターンの資産へと資金の移動が起こります。さらにひどい場合には、ローリスクローリターンからゼロリスクマイナスリターンの領域まで踏み込むこともあります。前者は、例えば株を売って現金にするようなリスクオフの動きであり、後者は、現金を売って他の安全な現物資産を買うような動きです。このように、危機のレベルに応じて資金がどこに逃避するかが異なるのです。

「リスク回避の円買い」、「安全資産としての円」という言葉の通り、世界最大の債権国である日本の通貨は、他国の通貨と比較して非常に優秀なローリスク資産です。また、長期間続くデフレからの脱却が進まないことで超低金利状態が続いており、ローリターン資産の代表格でもあります。このため、日本円は、平時はアホみたいに売られ、有事にはアホみたいに買い戻されるという極端な値動きを繰り返してきました。

2019年1月現在、金融危機を想定したリスク回避の円買い(円買戻し)が先行しており、純金価格の上昇を相殺しています。さらに日本の低金利政策に対して米国が不満を表明していることから、円の買戻し以上に円買いに傾く可能性もあります。円の買戻しと円の新規買いが重なることで、円は他の通貨と比較して極端に強くなるかもしれません。つまり、1ドル100円を割るような円高もあり得ます。

いつ純金を買うか

金融危機が実際に起こると、換金需要によって一時的に純金が売られることがあります。また、円高傾向が続くと、ドル建てで純金価格が上がっていても円建ての純金価格は大きく下落する可能性があります。

次の危機においても、「純金の評価は高まっているがそれ以上に日本円の評価が高まる状況」が起こるかもしれません。

これからリーマンショック級の危機が訪れるかもしれないと考えたとき、慌てて純金を買うのではなく、「換金需要としての純金売り」及び「リスク回避の円買いと米国との関係性による円買いによる円高」が発生するかどうかを見極めることが必要でしょう。